滝沢克己の世界
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(3)西田幾多郎の声-業績をめぐるエピソードとしてー
2017.11.24
拝啓 未だお目にかかった事もないのに突然手紙をさし上げることを御許し下さいませ
私は先月来ここに来ていましたので今月の「思想」を見ないでいましたがこの頃京都から転送して来ましたので御論文を一読いたしました 判断的知識の所だけですが私はこれまでこれ位よく私の考をつかんでくれた人がないので大いなる喜を感じました はじめて一知己を得たようにおもいました 今度「行為の世界」というものをかきました 遠からず岩波から出版いたします どうかまた御一読を願います
(一部現代表記に変更などあり、以下同じ)一九三三(昭和8)年八月二十二日 西田幾多郎 滝沢克己様机下
坂口博編「西田幾多郎の滝沢克己あて全書簡」より
(滝沢克己協会編『思想のひろば』15号2頁、2003)帰ってからぽつぽつご著書〔『西田哲学の根本問題』、書込み者注〕をよんでいます 長い間私の根本思想を理解してくれたものなく自分の考え方は到底人より理解せられないものと思っていましたのに心強く感じました 私の仕事は今の処私の如き根本思想からこの世界を見ればこれまでのいろいろの問題はいかになるか 私の立場からこの世界をみなおすにあるので根本問題そのものを明らかにする点に於いて尚不徹底な所があるかも知れませぬがだんだんさういふ問題に入って行こうと思って居るので御座います 何卒御健康御大切に折角御研究を進められんことを切望の至りに堪えませぬ一九三六(昭和11)年十月十五日 西田 滝沢君侍史
同上「西田幾多郎の滝沢克己あて全書間」(4頁)御手紙及び『現代日本の哲学』「パリサイ人のパン種」拝受 難有御座いました 前者の方さっそく拝読簡潔によく要領が把握せられて居ると思います 私の考についてのべられて居る所も異議ありませぬ 私と田辺君との相違についても似ている様で非常に違う 御説の通りとおもいます 『草枕』の序論も面白い 私は田辺君の云う様な立場から考えていないが私から云えば同君の如き立場は私の考に一面含まれると思うのです 然るにあの人はむやみに私の立場を無媒介無媒介として敵視して居るのが解し難い 〔中略〕 『現代日本の哲学』は紙数制限のためこれだけで終わりになりたるは誠に惜しいと思います どうももっと十分にお書き下さる様切望の至りに堪えませぬ 〔略〕一九三九(昭和14)年二月二十二日 西田 滝沢君
同上「西田幾多郎の滝沢克己あて全書間」(11頁)